東山日のほがらかに眠りたり
かさなりて眠る山より高野川
わが机眠る比叡を硯屏に
北山の眠りの深くみゆるかな
枯園や遠目の温室のあをあをと
あざらしの潜きたのしむ寒の水
炉開いて美しき火を移しけり
うち湛へ氈のよろしも暖炉燃ゆ
城内にひゞける鐘はクリスマス
灯を吐いて降誕祭の廚口
うつしゑのうすきあばたや漱石忌
漱石忌全集既に古びそむ
炭の香のはげしかりけり夕霧忌
炭をつぐあえかな指に眼をとどむ
つぎ去りし炭のかをりのきこえそむ
双親の一つづつなる桐火鉢
つれづれの手のうつくしき火桶かな
伊達巻の朱のさえざえと火を埋む
焚火屑珍の珊瑚に紛ふあり
寒稽古青き畳に擲たる
遠吠のきこゆるばかり玉子酒
湯豆腐や隣は更くる太融寺
湯豆腐に松竹梅を惜まざる