和歌と俳句

日野草城

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

岡寺の高きに灯る冬の山

東山日のほがらかに眠りたり

かさなりて眠る山より高野川

わが机眠る比叡を硯屏に

北山の眠りの深くみゆるかな

枯園や遠目の温室のあをあをと

あざらしの潜きたのしむ寒の水

炉開いて美しき火を移しけり

うち湛へ氈のよろしも暖炉燃ゆ

城内にひゞける鐘はクリスマス

灯を吐いて降誕祭の廚口

うつしゑのうすきあばたや漱石忌

漱石忌全集既に古びそむ

炭の香のはげしかりけり夕霧忌

をつぐあえかな指に眼をとどむ

つぎ去りしのかをりのきこえそむ

双親の一つづつなる桐火鉢

つれづれの手のうつくしき火桶かな

伊達巻の朱のさえざえと火を埋む

音羽山暮るゝ焚火のはなやかに

焚火屑珍の珊瑚に紛ふあり

寒稽古青き畳に擲たる

遠吠のきこゆるばかり玉子酒

湯豆腐や隣は更くる太融寺

湯豆腐に松竹梅を惜まざる