和歌と俳句

日野草城

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句を作るこころ戻りぬ冬立ちぬ

山茶花やいくさに敗れたる国の

たのしげに煙立ちのぼり冬日和

日曜や冬の日向にあぐらゐて

背の陽のたのしくて冬はじまりぬ

冬晴の障子微笑を湛へたり

干柿をねちねちと噛みたのしめる

洟風邪のたわやめの掌の青蜜柑

闇市の混沌として冬日和

しまき焦都しばらく雪に消ゆ

冬海の碧さよ陸は焼け爛れ

冬ざれて枯野へつづく妻の手か

冬の蠅しづかなりわが膚を踏み

手に逐はれすこしづつ飛ぶ冬の蠅

山茶花の咲くより散りてあたらしき

山茶花の匂ふがごとく散り敷ける

はきはきと十一月の雨蛙

冬立ちぬ十日のひげを剃り払ふ

冬立ちぬつかひおろしの佳きしやぼん

霜月のかたつむりこときれてゐし

隙間風一咳二咳そそり去る

寒旦の鵙さけび咳を催しぬ

寒きびしひとの青春眼もあやに

わかものの恋きいてやる日向ぼこ

冬の日や玉のまどかにわがいのち