和歌と俳句

源俊頼

春日山 ふもとの小野に 子の日して かごとを神に まかせてぞみる

なにごとを 待つ身ともなき あやしさに 初子は来れど 引く人もなし

祝ひつつ 今日しも松を 引きつれば 初子ぞ春の はじめなりける

子の日して よはひを野邊に 雪ふれば ふたばの松も 花さきにけり

千載集・春
春日野の 雪を若菜に つみそへて けふさへ袖の しをれぬるかな

をがみ川 むつきにはゆる ゑごの畦を 摘みしなへても そこのみためぞ

こころざし 深きみたにに つみためて いしみゆすりて 洗ふ根芹

春日野の 雪のむら消え かきわけて たがため摘める 若菜なるらむ

たぐひなき 心ひろさを かたみにて なけのなさけを つみてけるかな

おいらくの 腰ふたへなる 身なれども 卯杖をつきて 若菜をぞ摘む

はとのゐる 杖にすがりて 摘みければ そのしるしさへ たのもしきかな

君がため 夜ごしに摘める ななくさの なづなのはなを 見てしのびませ

いかばかり うれしからまし 身につめる 年をわかなと おもはましかば

今日ぞ知る こえくる山の けはしさに 年も卯杖を つくにやあるらむ

あさましや 初卯の杖の つくづくと おもへば年しの 積もりぬるかな

とへかしな 今日の卯杖に すがられて 世によろほへる 老いの姿を

ひく駒の 松のみどりの 色なれば 千歳をすぐす 庭かとぞみる

初春の 望月にもる 粥なれば なべてならずは あかきなりけり

山里は つもれる雪の いつしかと 消ゆるぞ春の しるしなりける

いかにせむ 花まつほどの 淡雪は まなく降れども つもらざりけり