千載集・恋
難波江の 藻にうづもるる 玉かしは あらはれてだに 人を恋ひばや
千載集・恋
麻手ほす 東乙女の かやむしろ しきしのびても 過ぐす頃かな
新古今集・恋
葦の屋の しづはた帯の かた結び 心やすくも うち解くるかな
あふことは かたなのはをも あゆむかな ひとのこころの あやぶまれつつ
したひくる こひのやつこの たびにても みのくせなれや ゆふとどろきは
とへかしな たれもさぞとは しりぬらむ けさしもしぬる こころよわさに
やまかつの あしやにかける たかすかき ふしにくしとも おもひけるかな
むやひする かまのほなはの たえばこそ あまのはしふね ゆきもわかれめ
石見潟 ことたが磯に よるなみは くだけてかへる ものとしらばや
なにごとに うらむとなみは あやかりて いとふなみだの しのにちるらむ
かつらぎの 神ならぬ身の かなしさは くるればものを おもひますかな
あしまゆく たななしを舟 ひとしれず こかるとすれど さはりがちなり
かずならぬ わが身はよるの ころもかは きつれば人の まづかへすらむ
なほざりに きたる人をや さよころも かへすばかりの 恋によそへむ
君がため ひつきにたつる にしき木の した朽つばかり なりにけるかな
千載集・恋
ささめ刈る 荒田の沢に 立つ民も 身のためにこそ 袖も濡るらめ
信濃なる すがのあら野に すむくまの おそろしきまで ぬるる袖かな
みそのふの まをのあさはき ななたぐり たぐるにつけて おくる君かな
すみれつむ しづのたぶさに しなへたる かたみにだにも 恋ふときかばや
金葉集・恋
忘れ草 しげれる宿を 来て見れば 思ひのきより 生ふるなりけり
つらしとも おもひなさすは なつころも ただひとへにや 恋ひしからまし