和歌と俳句

源俊頼

夏衣 たちきるけふの 白かさね 知らじな人に 裏もなしとは

暮れにける 春のほかにも 散らすてふ 名をさへ花の 残しけるかな

櫻だに 散り残らばと いひしかど 花みてしもぞ 春は恋しき

いとどしく 見る空ぞなき 櫻花 別れし春の 形見とおもへば

卯の花も かみのひもろき ときてけり とふさもたわに ゆふかけてみゆ

詞花集
雪の色を をぬすみて咲ける 卯の花は さえでや人に うたがはるらむ

卯の花の 身の白髪とも 見ゆるかな しづが垣根も 年寄りにけり

卯の花の 垣根なりけり 山がつの はつきにさらす けふとみつれば

卯の花の 垣根ばかりぞ もろともに 通ふ心の 隔てなければ

卯の花の 頃ほひなれや 磯の浦に 立つしき波の をるかとおもへば

卯の花の 盛りになれば しらとりの さぎさか山の しをりとぞみる

卯の花よ いでことごとし かけしまの 波もさこそは 岩を越えしか

卯の花の よさめなりけり をちこちに いつかは波の ゐせき越えける

卯の花の 盛りならずは 山里に 来る人ごとに 長居せましや

卯の花は 岩越す波に かをれども 折る手は濡れぬ ものにぞありける

なにかとふ おのが垣根の 卯の花を みぬにて知りぬ もののふぞとは

今日くれば しどろに見ゆる 山がつの おどろの髪も かけたり

人知れず あふひをまつと 知らせばや 桂の枝の をりもよからば

たちばなの きのまろどのに かをるかは とはぬに名のる ものにぞありける

かぎりなく 思ふ心を 知らするは 花たちばなの にほひなりけり