和歌と俳句

源俊頼

ほととぎす なげきのもりに あかずして 君がまつをば 過ぎにけるかな

ほととぎす よごろこころを つくさせて 今日ぞかすかに ほのめかしつる

ほととぎす 音羽の山に 鳴きつとは まづ逢坂の 人にかたらむ

をくろさぎ ぬたのねぬなは 踏みしだき ひもゆふましに かはづ鳴くなり

千載集・夏
あさりせし 水のみさびに 閉ぢられて 菱の浮葉に かはづ鳴くなり

初苗に うずのたままを とりそへて い串まつらむ としつくりえに

ながれつる けこのみわもり 數そひて さや田の早苗 取りもやられず

早苗とる たつのもすその ひたすらに おりたちわたる 身をいかにせむ

けさだにも 夜をこめてとれ 芹川や たけたの早苗 ふしたちにけり

ありくべき 方こそなけれ 柴のいほに ふけてかもきの はきしなるれば

岩の上に 生ふるみ沼の あやめ草 つめるみこしや よろづよのため

長き根も 花のたもとに かをるなり 今日やまゆみの ひをりなるらむ

あやめ草 君が淀野の 根ならねど ことめづらにも おもへかしなと

うれしさの ねをさへけさは かくるかな なにのあやめも 知らぬたもとに

あやめ引く み沼を見れば 唐国に 今日や鏡の かげをますらむ

みかきもる ゑしの玉江に おりたちて 引けばあやめの 根もはるかなり

わが宿は 軒のしのぶし しげければ 葺けるあやめも 見えぬ今日かな

あやめ刈る 安積の沼に 風ふけば おちの旅人 袖かをるなり

あやめ草 かげ水底に なみよりて 安積の沼も ふかみどりなる

たもとには かりにもかけじ ひとこころ み沼に引ける あやめとおもへば