五月雨は ふるから小野の 忘れ水 おしひたすらの 沼江とぞみる
五月雨は もりこし水も 岩越えて 庭も沼江の 底となりけり
千載集
おぼつかな いつか晴るべき わび人の 思ふ心や さみだれの空
五月雨は なつかしかりし 水のおとの おびただしくも なりまさるかな
雲はれぬ 皐月きぬらし たまころも むつかしきまで あましめりせり
五月雨の はれせぬころは ひきさらす 滝のしらぬの いくのそふらむ
五月雨は 軒の雫の つくづくと ふりつむものは 日數なりけり
五月雨は かはそひ柳 みかくれて 底の玉藻と なりにけるかな
ふりそめし 日を數ふれば みづかさの ひさしくなりぬ 五月雨の空
新勅撰集
やよやまた 来鳴けみ空の ほととぎす 五月だにこそ おちかへりけれ
ほととぎす ふたむら山を たづねみむ 入り綾のこゑや けふはまさると
たづぬとも かひやなからむ ほととぎす あとを皐月の つごもりにして
千載集・夏
あはれにも みさをに燃ゆる 蛍かな 声立てつべき この世と思ふに
山里は 澤邊のほたる 飛びかひて 音には鳥の 初音をぞ聞く
蘆の屋の ひまほのぼのと しらむまで 燃えあかしても ゆくほたるかな
おちこちの 夜河にたける 篝火と 思へば澤の ほたるなりけり
ともしする はやまの原に 立つ鹿の めもみせぬよを うらみてぞふる
逢ふことは ともしの鹿の 今宵しも めをみせつれば くるにやあるらむ
風ふけば 蓮の浮葉に たまこえて 涼しくなりぬ ひぐらしのこゑ
夏くれば ゆきかふ人を 逢坂の 関は清水に まかせてぞ見る