いとどしく 花たちばなぞ なつかしき こころさしける にほひとおもへば
ほととぎす はやまの裾を たづねつつ まだ里なれぬ 初音をぞきく
ほとときす 初音は空に とまらねど あかぬ名残に ながめつるかな
數ならぬ われとはなしに ほととぎす 夜を卯の花の 垣根にぞなく
みそのふに 麥の秋風 そよめきて 山ほととぎす しのびなくなり
ほととぎす 月わかしとや 奥山の こぬれ隠れに こゑならすらむ
あけはまつ 散らさでをらむ ほととぎす 花たちばなの 枝に鳴くなり
ほととぎす 今日は皐月と いひ顔に したり顔なる こゑぞきこゆる
ほととぎす おのが皐月の 空ならば ところもわかず したり顔なれ
はじめなき みのはじめより ほととぎす あかでもよよを 過ぐしけるかな
鳴かずとも 鳴きつといはむ ほととぎす 人わらはれに ならじと思へば
ほととぎす こゑまちつけて きくほどや 人に我が身の うらやまるらむ
しとみ山 風はおろせど ほととぎす こゑはこもらぬ ものにぞありける
ほとときす まちし渡らば 八橋の くも手の数に こゑをきかばや
ほのめかす 浮田のもりの ほととぎす 思ひしづみて あかしつるかな
ほととぎす 鳴かぬなげきの 森にきて いとどもこゑを ほほめつるかな
垣根には 鵙のはやにへ たててけり してのたをさに しのびかねつつ
嘆かじな 手向の山の ほととぎす 青葉の幣を とりあへぬまで
ほととぎす おのが寝覚めの 初こゑに 待つ人さへぞ おどろかれぬる
たがために 旅寝をすれど ほととぎす またとも鳴かで 小夜更かすらむ