和歌と俳句

源俊頼

さらし井の このしたかげに 雪ふれば 衣手さむし 蝉は鳴けども

すめらきの みことのすゑし 消えせねば けふも氷室に おものたつなり

冴え氷る ことを氷室に のこしおきて いづこへ冬の たちかくれけむ

夏の日も おもひのほかに さえゆけば 氷室ぞ冬の 形見なりける

千載集・雑歌
潮満てば 野島が崎の さ百合葉に 波越す風の 吹かぬ日ぞなき

日盛りは 遊びてゆかむ かげもなし 真野の萩原 風たちにけり

石走る 滝のとよみに うちそへて 木ごとにせみの こゑきこゆなり

うつせみの いでからくても 過ぐすかな いかでこの世に あとをとめまし

女郎花 なまめきたてる 姿をや 美しよしと 蝉のなくらむ

金葉集
この里も 夕立しけり 浅茅生に 露のすからぬ 草のはもなし

十市には 夕立すらし ひさかたの 天の香具山 雲隠れゆく

世の中を あくたにくゆる 蚊遣火の おもひむせびて すぐすころかな

山がつの 蚊をいとひける すくも火に 心をさへも そへてやるかな

蚊遣火の 煙になるる 菰簾 ものむつかしき 我が心かな

来る人も なき山里は かやり火の くゆる煙ぞ 友となりける

柴の庵を 叩く水鶏に 夢さめて 誰がならはしに 起きてとふらむ

心から たけたの里に ふしそめて 幾夜くゐなに はかられぬらむ

たれしかも 水鶏ならでは 叩くべき くろとのみとの ひましらむまで

水鶏にも ただはかられよ まきの戸を まことに叩く 折もこそあれ

夏くれば いくよ水鶏に はかられて 竹の網戸を あけてとふらむ