和歌と俳句

詞花和歌集

増基法師
けふよりはたつ夏衣うすくともあつしとのみやおもひわたらむ

源俊頼朝臣
雪の色をぬすみて咲ける卯の花はさえでや人にうたがはるらむ

大蔵卿長房
年をへてかけし葵はかはらねど今日のかざしはめづらしきかな

源兼昌
榊とる夏の山路やとほからむゆふかけてのみまつる神かな

周防内侍
むかしにもあらぬわが身にほととぎす待つこころこそ変らざりけれ

藤原忠兼
ほととぎす鳴く音ならでは世の中に待つこともなきわが身なりけり

花山院御製
今年だにまつ初こゑをほととぎす世にはふるさで我にきかせよ

道命法師
山里のかひこそなけれほととぎす都の人もかくや待つらむ

能因法師
山彦のこたふる山のほととぎす一こゑなけは二こゑぞきく

藤原伊家
ほととぎすあかつきかけて鳴くこゑを待たぬ寝覚の人やきくらむ

大納言公教
待つ人は寝る夜もなきをほととぎす鳴く音は夢のここちこそすれ

源俊頼朝臣
鳴きつとも誰にかいはむほととぎす影よりほかに人しなければ

待賢門院堀河
昆陽の池におふるあやめのながき根はひく白糸の心地こそすれ

源頼家朝臣
よもすがらたたく水鶏は天の戸をあけてのちこそ音せざりけれ

皇嘉門院治部卿源盛子
さみだれの日をふるままに鈴鹿川八十瀬の波ぞこゑまさるなる

大蔵卿匡房
わぎもこが昆陽の篠屋のさみだれにいかでほすらむ夏引の糸

源忠季
さみだれに難波堀江のみをつくしみえぬや水のまさるなるらむ

中納言通俊
藻鹽やく須磨の浦人うちたえていとひやすらむさみだれの空

良暹法師
さつきやみ花たちばなに吹く風はたが里までかにほひゆくらむ

花山院御製
宿ちかく花たちばなはほりうゑじむかしをしのぶつまとなりけり