和歌と俳句

詞花和歌集

藤原経衡
うすくこく垣ほににほふ撫子の花のいろにぞ露も置きける

修理大夫顕季
種まきし我が撫子の花ざかりいく朝露の置きてみつらむ

大弐高遠
なくこゑもきこえぬもののかなしきは忍びに燃ゆるなりけり

よみ人しらず
さつきやみ鵜川にともす篝火の數ますものはなりけり

藤原家経朝臣
風ふけば川邊すずしく寄る波のたちかへるべき心地こそせね

曾禰好忠
杣川の筏の床のうきまくら夏は涼しきふしどなりけり

源道済
待つほどに夏の夜いたく更けぬれば惜しみもあへぬ山の端の月

曾禰好忠
川上に夕立すらし水屑せく梁瀬のさ波たちさはぐなり

太皇大后宮大弐
つねよりも嘆きやすらむたなばたは逢はまし暮をよそにながめて

相模
したもみぢひと葉づつ散る木のしたに秋とおぼゆる蝉のこゑかな

曾禰好忠
蟲の音もまだうちとけぬ草むらに秋をかねても結ぶ露かな