兜虫なかなかに死なざる故郷
五尺六尺なる身心に麦埃
天上に映りて麦を刈り尽す
田は水を湛へて池水寂しけれ
梅天をとべる途中の鴉かな
百千の合掌天の夕焼に
半身を起す他郷の昼寝ざめ
雲の峯崩るる児孫たる我に
蓮池の真つ盛りなる他郷かな
真つ白な蓮の花の群に下車
我老いしや何処も蓮の花盛り
蓮満開して西方につまり居る
夏蜜柑いづこも遠く思はるる
梅天を咳し横切る鴉かな
矢の如く粗末に飛んで梅雨の鴉
夕凪や使はねば水流れ過ぐ
熟れ際に倒れし麦の熟れにけり
枝を張る紫蘇のいづこを笑はんや
紫蘇が枝を張ると雖も鴉過ぐ
全力か否か崩るる雲の峯
枇杷甘し満水の池ところどころ
行雲が後ろ向く草の茂りかな
蓮開くこと年年に迅くなる
崩れし雲の峯がバックで雲の峯
物として我を夕焼染めにけり