水臭き夏野の石に腰かけぬ
蝸牛孫を抱きたる足で踏みぬ
滝に誘ひて昔遊びし友の禿頭
孫抱いて池の蓮から帰るかな
禿頭池の鯰に沿ひ歩き
梅雨に入りて細かに笑ふ鯰かな
別れたる互ひの跡は麦の秋
尿の出て身の存続す麦の秋
中空を鈴響き去る麦の秋
百合剪るや飛ぶ矢の如く静止して
野の石が笑ふや単衣なるわれを
今日迷ふ紅き苺の珠を累ね
半眼のままの芭蕉葉心に延べ
麦秋を俯向き通る故郷かな
佇ちなやむ人間といひあやめといひ
遠景を容れて緑蔭の悶ゆる
葵とその周りの空間葵が占む
蛍火を愛して口を開く人
新しき蛾を溺れしむ水の愛
蛾流るる後ろの水に遅れつつ
麦藁を横切つて根は寂しき人
麦藁で牛を吹く人野の廣さ
蝸牛踏み潰す淡彩の人
明け白む蛍ごときに籠静か
死蛍に照らしをかける蛍かな