炭つかむ片手よごれたるまゝ
布団のびのび畳流れたり
水仙の葉の珠割く青よ
しぐれてあるく磧足跡よ
水ほしき硯膝頭凍てし
炭挽く手袋の手して母よ
二階に上りし日のさす日南ぼこ
原稿一篇は書上り手の白冴ゆ
公園にやすみ日南の犬の芒枯れ
牡蠣飯冷えたりいつもの細君
牡蠣船の障子手にふれ袖にふれ
風邪ひき添へし硝子戸の星空
荷車のそばに雪空仰ぐ子
障子あけて雪を見る女真顔よ
火燵のかげに物がくれなる汝れ
牛繋ぎし鼻づらよ火燵の我
火燵にあたりて思ひ遠き印旛沼
駅亭の女黒襟の日脚伸び
芝居茶屋を出てマントを正す口に唄出る
冬夜子供の寝息我息合ふや
編み手袋のほぐるればほぐす
葱を洗ひ上げて夕日のお前ら
綿入を著て膝正すことの勘定日
藁塚の旭の躍つたる牛
牡蠣船の屋根に鴉が下りたのを見て黙りたり