和歌と俳句

河東碧梧桐

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炉開いて灰つめたく火の消えんとす

茶の花や洛陽見ゆる寺の門

提灯に茶の花しるき夜道かな

山茶花や日南に氷る手水桶

品川の海静かなる小春かな

山中の積木に休む小春かな

畚の中雀来て居る小春かな

小春日の里にお助け普請かな

御溝水帰り咲く花枝々に

奥の灘は紅葉散りしく門辺かな

落葉掃いて文庫の訴訟安堵かな

蘆の中の水に溜れる落葉かな

そゝけたる梢銀杏の落葉かな

松立つて漁村の銀杏落葉かな

朴落葉俳諧の一舎残らまし

や皆くねりたる磯の松

や滝の上なる大悲閣

山門に時雨の傘を立てかけし

置捨てし床几の端の時雨かな

冬構の中に鳥居の裸かな

柴漬や水に押されて在処

牛羊の牧短日の歩みかな

赤門のしたに汐さす冬日かな

蜆かく舟も見えずよ冬の雁