和歌と俳句

河東碧梧桐

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

手をかざせば睡魔の襲ふ火桶かな

真上より滝見る冬木平かな

内浦になだらな島や浮寝鳥

要害の城や小春の旧山河

蓑ぬぎし晴れを思ふや帰り花

糸を繰る音と庇のしぐれかな

しぐるるや香に立つ温泉の洗ひ物

雪虫の飛ぶ廟前の木立かな

左右にある殉死の塚の落葉かな

多羅葉の大樹けやけき神の留守

沼尻の川の流れや柴漬くる

霜凪に濃き紅葉見ゆ向ひ島

宮の大樹伐ると噂の小春かな

山越しに窟のあるや三十三才

船頭の社案内や散る紅葉

出羽人も知らぬ山見ゆ今朝の冬

金華山志せば冬になる

留錫のお物好みや蕪汁

ぶりぶりに似し長かぶら面白や

鞍づけの蕪が落ちそな馬が行く

上の山泊りにせうぞ月寒き

柝過ぎて後犬行くや冬の月

蚕桑も拙なき里や菊枯るゝ

積藁の三つある庭や冬牡丹

地に柑子垂れて牡丹も冬を咲く