手をかざせば睡魔の襲ふ火桶かな
真上より滝見る冬木平かな
内浦になだらな島や浮寝鳥
要害の城や小春の旧山河
蓑ぬぎし晴れを思ふや帰り花
糸を繰る音と庇のしぐれかな
しぐるるや香に立つ温泉の洗ひ物
雪虫の飛ぶ廟前の木立かな
左右にある殉死の塚の落葉かな
多羅葉の大樹けやけき神の留守
沼尻の川の流れや柴漬くる
霜凪に濃き紅葉見ゆ向ひ島
宮の大樹伐ると噂の小春かな
山越しに窟のあるや三十三才
船頭の社案内や散る紅葉
出羽人も知らぬ山見ゆ今朝の冬
金華山志せば冬になる霰
留錫のお物好みや蕪汁
ぶりぶりに似し長かぶら面白や
鞍づけの蕪が落ちそな馬が行く
上の山泊りにせうぞ月寒き
柝過ぎて後犬行くや冬の月
蚕桑も拙なき里や菊枯るゝ
積藁の三つある庭や冬牡丹
地に柑子垂れて牡丹も冬を咲く