和歌と俳句

河東碧梧桐

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

冬川や湯田の蟹石出ずなりぬ

大きなる嘴鳥をるや冬川原

橡胡桃冬川筋の立木かな

すたれたる運河も見えつ冬の川

冬川や那須の高根のそがひ見ゆ

鮭鱒の孵化のさかりや寒の入

煤掃の焚火や竹の爆く音

鷲の羽を宿の箒や榾埃

カラカラな藻草に溜るかな

帆渡りの島山颪霰かな

吹きまはす浦風に霰霙かな

機仕舞ふ一間広さや餅莚

梅三分咲く餅搗の日取かな

闃として砕氷船も横たはる

鼻焦がす炉の火にかけて甲羅酒

古への冕の形を海鼠かな

何処来て里に落ちたる吹雪かな

防戦に焼かれし村や蘆枯るゝ

燈台に双棲の君や鳴く千鳥

いつよりか温石先生といはれけり

不覚なる病に寝じと懐炉かな

沼移りしてつどひをる鴨小鴨

楯に似し岩めぐり鳴くは千鳥かな

防風林風致を添ふる避寒かな

針山をかりて夫婦が避寒かな