和歌と俳句

秋元不死男

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無器用や朱の金魚に潤ふ

冬空や粘土を垂らす切通し

降るや痩せて暗処にナフタリン

組足の磔像これも

奥まる扉飛雪いよいよ司祭館

聖水をつまみ冷たき旅の指

雪の鳶破羽をおろす聖廃墟

雪はふる鼻をヨハネは失へり

遺壁あはれ千々に被る聖童子

水甕のいよいよ凍てる星座かな

一茶忌に耳のつめたくなりにけり

冬の崖飢ゑ鴉らに肩を貸す

砂踏めば一月ぬくし蟹の爪

浦波や寝連れ干鰯に冬日立つ

岬の端寒燈のもう伸び切れぬ

嘴光るいぢめ鴉に寒の潮

陵や眼鏡を落す雪の上

珠の眼の百歳婆に袖重枝

高齢と相炬燵して従者めく

薪を折る婆の強脛寒小菊

蛸壺を見る一片の咳入れて

悔と言ふ語音短し長し

比喩探しをればするんと牡蠣剥かる

綿虫の故旧光りて飛ぶ暗渠

一茶忌の雀の家族焚火越す