無器用や朱の金魚に潤ふ冬
冬空や粘土を垂らす切通し
降る雪や痩せて暗処にナフタリン
奥まる扉飛雪いよいよ司祭館
聖水をつまみ冷たき旅の指
雪の鳶破羽をおろす聖廃墟
雪はふる鼻をヨハネは失へり
遺壁あはれ千々に雪被る聖童子
水甕のいよいよ凍てる星座かな
一茶忌に耳のつめたくなりにけり
冬の崖飢ゑ鴉らに肩を貸す
砂踏めば一月ぬくし蟹の爪
浦波や寝連れ干鰯に冬日立つ
岬の端寒燈のもう伸び切れぬ
嘴光るいぢめ鴉に寒の潮
陵や眼鏡を落す雪の上
珠の眼の百歳婆に袖重枝
高齢と相炬燵して従者めく
薪を折る婆の強脛寒小菊
蛸壺を見る一片の咳入れて
悔と言ふ語音短し寒長し
比喩探しをればするんと牡蠣剥かる
綿虫の故旧光りて飛ぶ暗渠
一茶忌の雀の家族焚火越す