雪虫を鞭打つ風の桑の影
村々の墓の茶碗に雪がふる
屋根雪の重さ火責の薬缶ひとつ
リフト一路宙吊り婆に樹氷浮く
ふる雪に青の愁ひの病馬の湯
茂吉ねむる雪に童の墓刺さり
消しゴムさみし炬燵の中の暗い足
芽のやうな胎児に柚子湯湧きにけり
ちらちらと箸ばさむ河豚山眠る
短日のよよと軸焼く燐寸の火
焼栗の冷ゆれば重し翁の忌
点眼に額みどりめくクリスマス
茶の花や骨湯の好きも母ゆずり
行く年の湾にただよふ荒筵
航跡の白さささくれさへ冴ゆる
たらたら飛ぶ港所有の冬鴎
寝酒熱うせよ乾び鳴く鶏と犬
母の恩枯菊の惨うつくしき
ガスの穂を手風で立たす霙かな
しろじろと父母の齢や雪嶺昏る
髭のびて厚き屋根雪木影置く
島なれや穹円に張る冬桜
水仙持つて沖辺を見やる島童女
返り花享年三鬼へあと一年
戦後の鱈鹹しまだ見る獄中夢