和歌と俳句

種田山頭火

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雪へふるしづけさにをる

なにこかも凍つてしまつて啼く鴉

ふるひとりひとりゆく

雪折れの水仙のつぼみおこしてやる

雪あした、あるだけの米を粥にしてをく

雪のあしあとのあとをふんでゆく

雪どけみちの兵隊さんなんぼでもやつてくる

大きながふりだして一人

おぢいさんは唄をうたうて雪を掃く

押しつぶされて片隅の冬鴨しづか

ひとり雪みる酒のこぼれる

競つて売られる大魚小魚寒い風

冴えかえる水音をのぼれば我が家

つららぶらさがらせてやすらけく生きて

大根みんなぬかれてしまつた

日向の枯草をやいてゐる人一人

みぎひだりさむいさむいあいさつ

やうやうにして水仙のつぼみ

まづ枇杷の葉のさらさらみぞれして

けふ一にちはものいふこともなかつたみぞれ

をふんでくる音のふとそれた

右は酒屋へみちびくみちで枯すすき

何だか死にさうな遠山の雪

ようできたちしやの葉や霜のふりざま

ついそこまでみそつちよがきてゐるくもり

夕月があつて春ちかい枯枝

ゆふやみのうらみちからうらみちへ雪どけの

大根洗ふ指がおしへてくれる道は霜どけ

麦飯が腹いつぱいの日向ぼつこり

おちつくままに水仙のひらく

歪んで日向の花つけた梅のよろしさ

電燈ひとつ人間ひとり

さそはれてまゐる節分の月がまうへに

節分の長い石段をいつしよにのぼる

どこかに月が、霜がふる白い道

枯野まつすぐにくる犬の尾をふつて

錨おさへてさむいぬかるみもどつてきたか

せなかにぬくい日のあたりどこでもよろしく

ぬくい日の、まだ食べる物はある

このみちのどこへゆくふかう落葉して

なんとなく春めいて目高のあそびも

藪柑子、ここから近道となる落葉

足音は郵便やさんで春めいた雨

冬の山からおりてくるまんまるい月

枯枝をまるい月がのぼる

葉がない雲がない空のうららか

じゆうぶんやすんだ眼があいて

みんな働く雲雀のうた

咲いてここにもの木があつた

梅と椿とさうして水が流れてゐる