和歌と俳句

種田山頭火

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落葉ふる奥ふかくみほとけを見る

夕日の、ひつそりと落葉する木の

ただ一本の寒菊はみほとけに

山茶花さいてお留守の水をもらうてもどる

誰かきそうな空からこぼれる枇杷の花

しぐれたりてりだしたりここそこ茶の花ちつて

あしもとのりんだう一つ二つひらく

茶の木も庵らしくする花ざかり

すくうてはのむ秋もをはりの水の色

お地蔵さまのお手のお花が小春日

めつきりお寒うなりました蕪を下さつた

茶の花や身にちかく冬のきてゐる

落葉して大空の柚子のありどころ

住みなれて茶の花のひらいてはちる

いつしか明けてゐて茶の花

茶の花のちるばかりちらしてをく

もうの、電燈きえたりついたり

百舌鳥におこされて初雪

街は師走の、小猿も火鉢をもらつてる

月が、まんまるい月が冬空

のびあがりのびあがり大根大根

こんなところに水仙の芽が、お正月

小春日をあるけば墓が二つ三つ

凩のふけてゆく澄んでくる心

このからだ投げだして冬山

どこかそこらにみそさざいのゐる曇り

冬夜の人影のいそぐこと

鉄鉢たたいて年をおくる

お地蔵さまもお正月のお花

お正月のからすかあかあ

シダ活けて五十二の春を迎へた

お正月の鉄鉢を鳴らす

空腹かかへて落葉ふんでゆく

宵月に茶の花の白さはある

枝をはなれぬ枯れた葉と葉とささやく

霜の大根ぬいてきてお汁ができた

落葉の、水仙の芽かよ

雨となつた夜の寒行の太鼓が遠く

どこやらに水の音ある落葉

太陽がのぞけば落葉する家や

落葉ふんでどこまでも落葉

木枯の身を責めてなく鴉であるか

冬ぐもり、いやな手紙をだしてきたぬかるみ

草のそのまま枯れてゐる

食べるもの食べつくし何を考へるでもない冬夜

落葉ひよろひよろあるいてゆく

冬草もほどよう生えて住みなれて

にはつきり靴形つけてゆく

雪あかり餅がふくれて

雪ふる其中一人として火を燃やす

雪がつみさうな藪椿三つ四つ

ふるよりつむは杉の葉の

雪、雪、雪の一人

雪の夜の大根をきざむ

寝ざめしんしんふりしきる

お正月の雪がつみました

わらやしたしくつららをつらね

よう燃える火でわたしひとりで

雪から大根ぬいた