蓮の葉のひたすら青き梅雨かな
この恋よおもひきるべきさくらんぼ
夏帽子おなじうれひにかむりつれ
日の落ちしあとのあかるき青田かな
うすものを著て前生をおもひけり
胸もとに蟲の入りたる浴衣かな
行末のことおもはるる端居かな
夜光蟲闇をおそれてひかりけり
ときとして遠鶯や秋近し
秋近しひねもす雲のわきやまず
知らぬまにすこし眠りぬ夜の秋
おくるひとおくらるる人ひとりむし
大磯でとまらぬ汽車や虎が雨
大磯の山いと青く虎が雨
夢をのみ語りつづけつ団扇手に
をりをりはわが世はかなき浴衣かな
佇めば遠く水うちゐたりけり
木村屋の餡パンを買ひ帰省かな
夏深し日のさし交す枝々に
菖蒲園すぐに植田につづきけり
紫のさまで濃からず花菖蒲
花菖蒲ひたすら雨に座りけり
白あやめばかり咲きたる一ところ
さみだれや澄みわたりたる水の底