和歌と俳句

種田山頭火

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落葉あつめて墓守の焚く煙ひとすぢ

墓のしじまを身ひとつに落葉焚く

私ひとりでうららかに木の葉ちるかな

さむざむと鉢木の雨の赤い実よ

あかり消すやこころにひたと雨の音

一葉落つればまた一葉落つ地のしづか

一葉一葉おとして樹立澄みかへる

大銀杏しづけさのきはみ散りそめし

月澄むほどにわれとわが影踏みしめる

秋おだやかなお隣りの花を見るなり

けふも托鉢ここもかしこも花ざかり

秋風の木の皮がはげる山寺

菩提樹によりかかりまた月と逢うてゐる

松はみな枝垂れて南無観世音

松風に明け暮れの鐘撞いて

ひさしぶりに掃く垣根の花が咲いてゐる

分け入つても分け入つても青い山

しとどに濡れてこれは道しるべの石

炎天をいただいて乞ひ歩く

鴉啼いてわたしも一人

生死の中のふりしきる

木の葉散る歩きつめる

踏みわける萩よすすきよ

この旅、果もない旅のつくつくぼうし

へうへうとして水を味ふ

落ちかかる月を観てゐるに一人

ひとりで蚊にくはれてゐる

投げだしてまだ陽のある脚

山の奥から繭負うて来た

笠にとんぼをとまらせてあるく

歩きつづける彼岸花咲きつづける

まつすぐな道でさみしい

だまつて今日の草鞋穿く

ほろほろ酔うて木の葉ふる

しぐるるや死なないでゐる

張りかへた障子のなかの一人

水に影ある旅人である

雪がふるふる雪見てをれば

しぐるるやしぐるる山へ歩み入る

食べるだけはいただいた雨となり

木の芽草の芽あるきつづける

生き残つたからだ掻いてゐる