蓬莱に我が穂の春を祝ぎにけり
麦踏の母の居そめて父も又
燭据うる吾に触れたまふ雛かな
草の戸の能役者たる雛かな
わが膝に立ちたまふなれ納雛
耕の鍬もて舟行らむとす
耕の鍬かろがろと父帰り
童のごとく鵯居る椿かな
石楠花を妻にも見よと持帰る
御紋章あたりをはらふ祭櫃
もりそめしさみだれ傘に身をまかせ
みなづきの水の太白這移る
端居して遠しと信ず古俳諧
エンヂンの響きの海のくらげかな
本陣の語りぐさにと土用干
風早の沖のあたりか秋の波
かなかなに時化のなごりの秋の波
ともし火にしたしみそめて獺祭忌
冷やかに女人高野の路ひとつ
梨の皮潮のほさきに落ちにけり
一茎の寒鮒釣の顔に折れ
滝冱てて神変菩薩架けたまふ
跫音の通天冬に這入りけり
善男をなぶりもぞする十夜婆
櫃一つ神楽の庭に待ちつつあり
炭窯の路といふなり轍あり