和歌と俳句

竹下しづの女

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鳥雲に児を措きて嫁す老教師

影させしその蝶にてはあらざりき

夏帽や女は馬に女騎り

シクラメン花の裳をかかげ初む

大いなる月こそ落つれ草ひばり

秋晴の名ある山ならざるはなく

月代は月となり灯は窓となり

十三夜日記はしるすことおほき

流材に紅葉とぼしき双の岸

颱風の去にし夜よりの大銀河

学校の音春眠を妨げず

鯖提げて博多路戻ることもあり

茸狩るやゆんづる張つて月既に

窓しめて魂ぬけ校舎干大根

山をなす用愉ししも母の春

子をおもふ憶良の歌や蓬餅

おすや貧窮問答口吟み

花菜散る糟屋群をたもとほり

遠の灯の名ををしえられ居て涼し

一枚の濃紫せる紅葉あり

枝ながらそなへあり山の寺

迅し山は紅葉をいそぎつつ

旅衣時雨るるがまま干るがまま

旅疲れかくして語る夜長妻

青春の仏のかほと見まゐらす

郵便の疎さにも馴る雲雀飼ふ

籠雲雀に街衢の伏屋の明け暮るる

ことごとく夫の遺筆や種子袋

水飯に晩餐ひそと母子かな

貧厨にドカと位す冷蔵庫

墓参路や帯まであがる露しぶき

掃苔や景行帝の御所ちかく

真額に由布嶽青し苔を掃く

ひよどりきくいただき来人来ずも

忌ごもりのしのび普請に秋老ける

香の名をみゆきとぞいふ冬籠

日々にふくらみやまず書庫の窓

書庫の窓つぎつぎにあくさくらかな

母の名を保護者に負ひて卒業

いまそかるみ霊の父に卒業

かたくなに枝垂れぬ柳道真忌

貫之の歌たからかに菜摘人

玄海に花屑魚育てて碧き潮

卓の貝深海の譜をひそと秘む

書庫暗し若葉の窓のまぶしさに

紋のなき夏羽織被て書庫を守る

司書わかし昼寝を欲りし書を閲す

かわせみに蔦をよそはぬ老樹なく

月見草に子におくるるの母帰宅

月見草に食卓就りて母未だし