和歌と俳句

竹下しづの女

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干梅の皺たのもしく夕焼くる

汗の身を慮りて訪はず

蓼咲いて葦咲いて日とつとつと

父のなき子に明るさや今日の月

月あらば片割月の比ならむ

おもむろに月の腕を相搦み

夜の闇さ椎降る音の降る音に

梟やたけき皇后の夜半の御所

梟に森夜ぶかくも来りつれ

み仏にささぐる花も葦の華

吾がいほは豊葦原の華がくり

華葦の伏屋ぞつひの吾が棲家

棲めば吾が青葦原の女王にて

修道女のその胼の手を吾が見たり

節穴の日が風邪の子の頬にありて

化粧ふれば女は湯ざめ知らぬなり

葦火してしばし孤独を忘れをる

枯葦に雨しとしとと年いそぐ

葦の穂の今朝こそくろし春の雨

書庫の書に落花吹雪き来しづかにも

書庫瞑く書魔生るる春逝くなべに

灯りぬ花より艶に花の影

孵卵器を守れる学徒に日永くも

蝌蚪の水森ぐんぐんと緑し来

ヨツトの帆はろかに低しつつじ園

紫陽花や夫を亡くする友おほく

明けて葬り昏れて婚りや濃紫陽花

起居懈しきんぽうげ実を挙げしより

受話機もて笑ふ顔見ゆ合歓の窓

緑蔭や矢を獲ては鳴る白き的

吏愉し半休に入り弓を引く

痩せて男肥えて女や走馬燈

塔屋白しそだちやまざる雲の峯

青葦の囁きやまず端居かな

小風呂敷いくつも提げて墓詣

村人に轡をとらせ墓詣

四五人の村人伴れて墓詣

掃苔の手触りて灼くる墓石かな

故里を發つ汽車に在り盆の月

稗の穂は垂り稲の穂はツンツンと

篠白し月蝕まれつついそぐ

考へに足とられ居し蓼の花

母帰るや否や鶲が来しといふ

鶲来て母は毎日不在なり

鵯の路月の骸横たはる

随身の美男に見ゆ初詣

種子明す手品師も居し初詣

幾何を描く児と元日を籠るなり

円き日と長き月あり紙鳶の空

アカシアや庵主が愛づる喧嘩蜂