大いなる暮春の落花眼前に
水泡噴いて水脈しばしたつ霞かな
夕されば山背風は消ゆる竹の秋
菜の花の瓣に光やうす霞
菜の花にてふてふとまれ蜆川
雀の子白々として棟の上
残雪に日のあたりたる明さかな
砂村の月にほむらや猫の恋
白魚の小さき顔をもてりけり
うす雪を透いてみどりや蕗の薹
灯りて二軒親しや梅の中
下萌や掃きし土より蝶の骸
如月や障子の外の楠落葉
雛の庭をはじめてとびし蛙かな
古雛の高砂の髪も老いにけり
雨を来し人ひとくさし桜餅
唐草のゆたんの前や桜餅
水温む奈良はあせぼの花盛
黄昏の鹿映り居り水温む
春雨や大仏殿のうらの松
春泥やみち行く人を蔀より
洗ひたる甃に載りし春の泥
閑さや畑打つ人の咳払ひ
長雨の芽を養へる木の根かな
木の芽嗅ぐ蹄やほそり鹿の動く