和歌と俳句

野沢節子

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荒涼たる星を見守る息白く
三日月の光る鼻梁の凍りけり
夕寒しどこの部屋にも雨の音
寒月下一塊の雪病むごとし
われ病めり今宵一匹の蜘蛛も宥さず
遠の枯木桜と知れば日々待たる
群竹を傾けつくし東風離れ
人寝たり風雲せめぐ春の月
髪切虫角しごきやめわれを知る
濡れゆく人を羨しと見たり若葉雨
臥処よりあぢさゐの藍空の藍
短夜の雲の帯より驟雨かな
かひな霑らすことし苦患の汗にあらず
かがまれば鬼灯朱し彳てば青空
鬼灯のあからめばやらむ子が三人
鬼灯のつまぐり父母に拠るながし
秋蝉や卓にちらばる刺繍絲
振子北にを南にききねむる

野分すすむその夜をひかる人の肌
袖かさね寒きわが胸抱くほかなし
枯野中行けるわが紅のみうごく
夕霧を来る人遠きほど親し
鴉群れわれに苦役のごとき
冱て返る沼のごとくに午後睡る
羽織紐朱し胸べに林檎剥かれ
枯原の雪解卒に午後のごとし
雪残る夕日や父にちかく坐す
熱の夜のさくら咲き満ち幹立てり
黄塵に息浅くして魚のごとし
おくれ毛に春の光陰闌けにけり
梅雨晴の清水坂を奔りけり
見えてゐる野薔薇のあたりいつ行けむ
薔薇に風琴柱にふれしままにあり
野蜂とび交ふや向日葵いづこに立つ
蝸牛つきし葉の他真青に
青葉邃しとりだす鏡潭に似て
牛車ゆくかぎり櫟轆あじさゐ
青嵐大事去りにしごとくあり
いなづまに瑕瑾とどめぬかひなかな
蟷螂の青き目のうちより視らる