和歌と俳句

紫陽花 四葩

紫陽花の咲けば咲かねば悔ひとつ 楸邨

紫陽花と空とある水音澄めり 知世子

臥処よりあぢさゐの藍空の藍 節子

牛車ゆくかぎり櫟轆あじさゐに 節子

あぢさゐが藍となりゆく夜来る如 多佳子

あぢさゐやきのふの手紙はや古ぶ 多佳子

驕り咲く紫陽花に中門を開け 立子

老境や四葩を映す水の底 鷹女

あぢさゐのこの世の隅に追放され 静塔

あぢさゐやひと日は猫の死を悼み 真砂女

あぢさゐのいろ濃きうすき宿世かな 万太郎

あぢさゐの藍のやうやく濃かりけり 万太郎

あぢさゐやすだれのすそをぬらす雨 万太郎

あぢさゐの咲きのこりたる木の間かな 万太郎

紫陽花や人見る犬の怜悧な目 立子

紫陽花や帰るさの目の通ひ妻 波郷

紫陽花や往昔切支丹来朝図 秋櫻子

紫陽花や旅立つまえの稿ひとつ 林火

夢枕多美子ならずや濃紫陽花 青畝

紫陽花のいまの彩にも日数経ぬ 悌二郎

あぢさゐのさみどり母は若く死にき 悌二郎

あぢさゐの水漬けるところ一碧に 爽雨

あぢさゐの落花は陶の破片なり 誓子

あぢさゐの闇夜も知らぬ深眠り 鷹女

潮寄せて紫陽花影を浸しけり 秋櫻子

藍染は日のべ雨のべ濃あじさゐ 静塔

清拭や紫陽花の藍霽れあがり 林火

日ざすたび揚羽ひらひら濃あぢさゐ 青畝

濃あじさゐ扇をねたむ日なりけり 汀女