更衣おくれつつまだ旅にあり
突然に薄暑となりし金沢に
夏襟も更へずそのまま旅鞄
かび拭いて即ち書くや小短冊
枇杷を食むぽろりぽろりと種子二つ
白涼し紫も亦涼しく著
三角に西日射し込み午後三時
滝壺の岩根に朝の虹かかり
貧乏に疲れきつたる団扇かな
豊かなる老の心や籐寝椅子
睡蓮の汀に睫長き子よ
籐椅子のきしみはばかり掛けてをり
持ち古りし扇の風をいとほしみ
五月雨の印旛落しも見て来たり
皆明日のことにしいねん灯取蟲
端居してすぐに馴染むやおないどし
驕り咲く紫陽花に中門を開け
怖ろしや羽ばたき過ぎし夏の蝶
早く来て待つ間久しや扇風機
夏料理色を違へて皿小鉢
夏帯のきしむを気にしゐるらしく
夕虹や驟雨のあとの舟溜り
折からの雨もたのしや船遊び
遊船の岸近くゆく額の花