和歌と俳句

星野立子

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小諸はや塗りつぶされし初夏の景

卓布吹きやがてわれ吹き扇風機

板塀のまあたらしさよ夏柳

衣更へて静かに翁さび住める

いふまじき言葉を胸に端居かな

大蟻のあめをはじきて黒びかり

きゆうきゆうと鳴る夏帯に気をとられ

蓋あけし如く極暑の来りけり

忘れたきことと一途に水を打つ

待つ程もなく涼風のたたみ来る

一つ家の灯に金亀蟲かぶと蟲

やがて沈む日の当りをる牡丹かな

セルを著て細き腕の頬杖つき

人の見ぬ方の若葉の山を見る

ぐんぐんと雲ぬき夏の月となる

薔薇の香か今ゆき過ぎし人の香か

に大粒の雨到りけり

十薬を刈りしばかりの夜道来し

暑に負けてみな字忘れて仮名書きに

食堂の西日の卓の蠅いやし

晩涼のましろき蝶に今日のこと

打水によごれし脛に蚊のとまる

夕立に追ひ込まれ来し山の蝶

水車の音きき足早め葭雀

夏木根の掛心地よし足をくみ