小諸はや塗りつぶされし初夏の景
卓布吹きやがてわれ吹き扇風機
板塀のまあたらしさよ夏柳
衣更へて静かに翁さび住める
いふまじき言葉を胸に端居かな
大蟻のあめをはじきて黒びかり
きゆうきゆうと鳴る夏帯に気をとられ
蓋あけし如く極暑の来りけり
忘れたきことと一途に水を打つ
待つ程もなく涼風のたたみ来る
一つ家の灯に金亀蟲かぶと蟲
やがて沈む日の当りをる牡丹かな
セルを著て細き腕の頬杖つき
人の見ぬ方の若葉の山を見る
ぐんぐんと雲ぬき夏の月となる
薔薇の香か今ゆき過ぎし人の香か
萍に大粒の雨到りけり
十薬を刈りしばかりの夜道来し
暑に負けてみな字忘れて仮名書きに
食堂の西日の卓の蠅いやし
晩涼のましろき蝶に今日のこと
打水によごれし脛に蚊のとまる
夕立に追ひ込まれ来し山の蝶
水車の音きき足早め葭雀
夏木根の掛心地よし足をくみ