星野立子
黒部川夏の夕べの橋長く
のしかかる如き暑さに立ち向ふ
関を発つ別れ心に紅うつぎ
田植笠かむりし二人トラックに
太りたる金魚の齢思ひ見る
棕櫚縄の垂涼しげに日除出来
濡縁に犬上りをり夏の雨
山荘は南西に縁富士薄暑
明易や大津あたりの車窓雨
蜘蛛の囲を払ひ払ひて先導す
十薬や山路細まり土湿り
先住の尼ぜなつかし今年竹
考の二転三転梅雨豪雨
淋しさをかみしめてをる夜涼かな
もぎたての茄子の紺や籠に満てり
元日のやうな朝日が登山道
よく冷えし梅酒運び来僧の妻
生垣に入口ありて夏山家
週末をさけて薄暑の城ケ島
暁の空気泰山木咲けり
井戸蓋に落ちかたまれる桐の花
晩涼やねぐらの烏かしましし