睡き睫毛のいづれも稚な植田にて
川鳴りだす植田に万の星きらめき
恩讐や五月蛇色ドレス著て
みづすまし翅炎えくれば水を去る
蛍火や昃れば僧衣真つ黒く
水中花必死や弥陀のコツプ透き
寝て覚めて炎昼何の音も無し
晩祷や晩祷ながき薔薇の中
田に清水念仏太鼓痩せ音張り
童女亀を伴れ金の土用波
梅干してをんなの生身酸つぱくなる
のぞきからくり 信玄袋に氷菓入れ
百日紅百日咲いて開かずの門
虹へ小刻み 亡母を背にゆすりあげ
梅干ひとつぶ 骨壷を掻きまはし
陸橋に逸るとかげを連れ戻す
水ながれ来て菖蒲田を栖家とせり
葉ざくら街道老婆らここに行き逢へり
雷鳴や老眸まれに涼しくて
老鶯や泪たまれば啼きにけり
とかげ妙齢尻尾が風を弄ぶ
校庭や乳歯が抜けてさくらんぼ
夏暁鶴のごとくまどろみ晩年
あぢさゐの闇夜も知らぬ深眠り
荒梅雨や一日無言の手習ひ童子