こころ燃ゆ夕映えもえゆる束の間は
眼底にのこれる人も夕映えぬ
炎天の蝶をかなしき眸にとらへ
英霊となり炎天をかへり来給へり
炎天に眼をさらし哭かじとす
あやめ咲くことを思へり厨房に
子と母の夕餉あやめを眸にゑがき
鶴は病めり街路樹の葉の灼けて垂り
炎天に愛しみあへり鶴と女
葵咲きのぼり断水区域なり
児が啼けり断水街の街中に
花火店日並び夜毎給水車
地表灼けひるがほ小さき花つけたり
鮎ほそく昼餉の卓に反りかへり
黒猫もいたく夏痩せ吾が家に
髪刈りし父とその子に雷ひびく
蚊帳青し眠らえぬ夜の瞳をつむり
電工はかなしからずや天灼くに
母を恋ふ一瞬工夫宙に灼
なめくぢも我れも夏痩せひとつ家に
なめくぢを罵るこころ主婦となり
ひまはりの昏れて玩具の駅がある
夏旅の短かに吾子の頬尖り
子の鼻梁焦げて夏山をいまも言ふ
あはれ我が心に展け夏山河