梅落す夫人を日矢は射あやまつ
百日紅深息しては稿をつぐ
花過ぎし二人静も旱の香
向日葵の八方に雷たばしれり
昼あそぶ黄金蟲をり百日紅
韮の花坂としもなく息あへぐ
青梅や怠りて子に蔑さるる
風鈴の肋を打つて鳴りいでぬ
羽抜鶏駆けて病友在らざりき
すでに褪せぬ妻とわれとの麦藁帽
芭蕉玉解く麦丘人必ず来む
亡き友恋へばひしと恋しや糊浴衣
よろこびて囃す雀や袋掛
少年の去りし石踏み泉汲む
籠りつげば曇りつぐなり沙羅の花
蚊火の風夾竹桃の裏白葉
蕗煮る妻の贔屓角力は負け去んぬ
蜂蜜はいまアカシヤどき多摩風に
椎若葉少女子も吹きしぼらるる
起ち直る草や早乙女の足過ぎて
万太郎逝きて卯の花腐しかな
梅酒酌むわが菩提樹の木陰あり
橡若葉術後一歳濃く過ぎぬ
街を来る主治医に逢ひぬ栃の花
夏立つ野何の焔ぞ棒立ちに
沙羅の花捨身の落花惜しみなし
夕立の波打つ朴の樹紋かな
沙羅の花緑ひとすぢにじみけり
ほしいまま鮎焼く香あり病家族
泉掬む双膝双掌ひしと合はせ
わが胸の陥没部位よ菖蒲泛く
尊きかも竜馬山房に黴びし墨
雀らに泰山木の黙の花
沙羅の花ひとつ拾へばひとつ落つ
鴨脚草けふ一歩だに土踏まず
病棟に病連衆ありてまり花
松風に蚊帳配られて真白なり
鹿子草こたびも手術寧からむ
夏柑やどつと笑ひて創痛む
紫陽花や帰るさの目の通ひ妻
桜桃を洗ふ音個室ひびきけり
やうやくに睡くなりけり蛍籠
卯の花腐し君出棺の刻と思ふ
山鳩の機嫌の歌よえごの花
病室の隅の未明やアマリリス
下界飛ぶ朝涼雀羽十字
日の在り処よぎりし鳩や朝ぐもり
夕顔のひらく光陰徐かなり