和歌と俳句

水原秋櫻子

風呂吹や曽て練馬の雪の不二

風呂吹や究竟一の柚味噌にて

煮凝や鰈全きうらおもて

寒餅や日溜り蓬搗きまぜて

寒餅に罅はしらざるめでたさよ

水門に遠き筑波や白魚舟

白魚飯酒の香立つをよろこべり

草餅や鴉をわらふあづま歌

山茱萸の夜明を阻む雨くらし

山茱萸と日輪うかぶ雨の中

二羽翔けて天日まどかなり

人無きに灌佛濡れて居給へり

筍飯一椀に足りはやねむし

植木市すみし朧に水の音

中の日は雨に出渋る植木市

芽柳や東をどりの唄洩れて

庭畑もいざよふ月の花蜜柑

夜をこめて潮に乗りゆく鰆釣

道ふさぐ檸檬の枝に花匂ふ

鱚舟の錨あげけり潮どまり

潮寄せて紫陽花影を浸しけり

水無月の落葉とどめず神います

ほととぎす来鳴くや黙す座禅石

からすうり咲くを見にいづ夕餉あと