和歌と俳句

水原秋櫻子

梅雨の月半輪高し白鷺城

青梅雨の雲しりぞけつ白鷺城

化粧の間塵もとどめず梅雨最中

十薬や瓦の文の聖十字

鴨脚草咲く井やお菊ものがたり

千姫の羽子板見るや汗忘れ

葉柳も飛燕も低し五層閣

遠雷や千鳥破風に雨のあと

梅雨ひぐらし天守の神にはるかなり

垣に咲きあるじも知らずからすうり

まぎれ咲くからすうりあり藪からし

月の客乗せ来し雲ぞとどまれる

倉敷川夜蝉鳴きつぐ夏柳

向日葵に夜蝉すがれる蔵屋敷

船着の花火にうかぶ旅籠あり

芙蓉咲き倉敷川は朝澄めり

絵すがたは誰が筆ならむ近松忌

鐘の声稀にきく世や近松忌

大阪に中座のこるや近松忌

羽子板や子はまぼろしのすみだ川

雨音はすでに夢路か宝舟

扉より歌舞伎幕見ゆ鏡餅

河豚雑炊刷毛目の鍋をあふれいづ

河豚雑炊餅に舌焼くたのしさよ

河豚雑炊吹き吹き椀を替へにけり