和歌と俳句

水原秋櫻子

釣瓶落しといへど光芒しづかなり

釣瓶落しひとたび波にふれにけり

顔見世の噂や火鉢拭きながら

青き葉を一枚立てて柚釜かな

海老活きてひそみしさまの柚釜かな

姿よき柚釜を占めて牡蠣ひとつ

波郷忌や富士玲瓏の道行きて

濤音や返り咲きして桃の枝

梨どころ来れば道辺に返り花

返り咲く草木瓜あれば畦の蝶

返り花満ちてあはれや山ざくら

霜晴れや朝餉に代るふかし藷

紅葉焚くけむり一縷となりにけり

鰤の海沖津白波加へけり

佳き鉢に替へてひらきぬ福寿草

年祝ぐや浦の蛤磯の海老

撒手拭得たりと受けて初芝居

鯛焼の鰭よく焦げて目出度さよ

懐手解けば鯛焼の香なりけり

幕あひや鯛焼とどく楽屋口

寒餅を焼くたのしさに火桶置く

寒餅に蓬の香ありめでて焼く

毛糸帽老の長眉隠しけり

毛糸帽わが行く影ぞおもしろき

毛糸帽いぶかり見上ぐ辻の犬