朝顔やむかしいづこを入谷川
露けさに道うしなへり猫じやらし
立秋や腹ととのふる吉野葛
草がくれ種子とぶ日なり鳳仙花
風の黍空蝉一つ落しけり
酔芙蓉のこして拓く駐車場
秋蝉の落ちて池心へ流れけり
葛切や佳き茶をのこす壺ありて
虫螫すや立待月の草の丈
救急車行けば坂照る居待月
蘭の影二つより添ふ寝待月
新豆腐添へる夕餉や秋祭
杉の香の高尾の護符や星月夜
点滴の除れて夜長の足やすし
菊日和かさねてさらに菊月夜
菊の香の大顔見世となりにけり
検温の暁さむく蘭にほふ
蕪まろく煮て透きとほるばかりなり
退院やけふ大安の冬御空
喜雨亭に柚子湯沸くなり帰り来て
餘生なほなすことあらむ冬苺
初芝居絶えし荒事よみがへり
病みし髪みだれしままに宝舟
初夢や念頭病わすれ得ず
福寿草十花燦たる鉢一つ
初電話巴里よりと聞き椅子を立つ