和歌と俳句

水原秋櫻子

朝顔やむかしいづこを入谷川

露けさに道うしなへり猫じやらし

立秋や腹ととのふる吉野葛

草がくれ種子とぶ日なり鳳仙花

風の黍空蝉一つ落しけり

酔芙蓉のこして拓く駐車場

秋蝉の落ちて池心へ流れけり

葛切や佳き茶をのこす壺ありて

虫螫すや立待月の草の丈

救急車行けば坂照る居待月

蘭の影二つより添ふ寝待月

新豆腐添へる夕餉や秋祭

杉の香の高尾の護符や星月夜

点滴の除れて夜長の足やすし

菊日和かさねてさらに菊月夜

菊の香の大顔見世となりにけり

検温の暁さむく蘭にほふ

蕪まろく煮て透きとほるばかりなり

退院やけふ大安の冬御空

喜雨亭に柚子湯沸くなり帰り来て

餘生なほなすことあらむ冬苺

初芝居絶えし荒事よみがへり

病みし髪みだれしままに宝舟

初夢や念頭病わすれ得ず

福寿草十花燦たる鉢一つ

初電話巴里よりと聞き椅子を立つ