和歌と俳句

河豚 ふぐ

もののふの河豚にくはるる悲しさよ 子規

河豚汁や死んだ夢見る夜もあり 漱石

物言はで腹ふくれたる河豚かな 漱石

鶚の巣見えて河豚釣る岩間かな 碧梧桐

河豚喰ふや短き命短き日 虚子

饒舌の悔もあり闇の河豚汁 山頭火

毒ありて活く生命にや河豚汁 山頭火

河豚の友そむきそむきとなりにけり 鬼城

将門と純友と河豚の誓かな 鬼城

河豚の歯の三角にらむ空深し 石鼎

河豚鍋や炉にかたむきて地獄変 喜舟

河豚くうておそろしくなりし月の色 万太郎

虎河豚を喰ふ蘭学の書生かな 喜舟

魚売の河豚もて来たり吾子よ見よ 秋櫻子

河豚汁や風雅の上の生別れ 喜舟

鰒鍋や酔はざる酒の一二行 蛇笏

河豚宿は此許よ此許よと灯りをり 青畝

てつちりと読ませて灯りゐるところ 青畝

てつちりと灯るところも又繁華 青畝

言のみの威猛泡なす河豚鍋 友二

河豚の宿女ばかりに迎へられ 占魚

河豚の血のしばし流水にまじらざる 多佳子

河豚の皿燈下に何も残らざる 多佳子

河豚の臓喰べたる犬が海を見る 多佳子

河豚煮るゆげ誘はれて海渡りたる 多佳子

河豚食つて戻りし目鼻ながめらる 楸邨

河豚食へば太笛の船出でゆけり 青畝

海峡に髪逆立てて釣るは河豚 三鬼

河豚鍋や餅も見分かぬ湯気立ちて 秋櫻子

河豚雑炊眼鏡くもりてただうまし 秋櫻子

河豚雑炊刷毛目の鍋をあふれいづ 秋櫻子

河豚雑炊餅に舌焼くたのしさよ 秋櫻子

河豚雑炊吹き吹き椀を替へにけり 秋櫻子

てつちりの茄子は紺を盗まれし 青畝