和歌と俳句

稲妻

艶なるや海のおもてのいなびかり 誓子

いなづまのゐる闇縁のところまで 誓子

膝に来て稲妻うすく消ゆるかな 虚子

いなびかり病めば櫛など枕もと 多佳子

稲妻や馬の乳房は胸に在らぬ 草田男

稲妻の包みて小さき伏屋かな 虚子

膝に来て消ゆる稲妻薄きかな 虚子

稲妻に道真向へば喜ぶ足 三鬼

いなびかり終に子のなき閨照らす 誓子

焼工場夜雲五倍す稲妻す 波郷

稲妻に子の寝し家を出て歩く 波郷

稲妻す妻の来し方我行く方 波郷

稲妻のほしいままなり明日あるなり 波郷

いなびかり遅れて沼の光りけり 多佳子

いなびかり北よりすれば北を見る 多佳子

いなずまのあとにて衿をかきあはす 多佳子

母老いて在り紅白のいなびかり 耕衣

いなびかり洩る雲の扉の片開き 誓子

いなづまは照らすものなく雲照らす 誓子

往きに見し蘆いなずまとなりゐたり 林火

いなづまに瑕瑾とどめぬかひなかな 節子

一とむかしふたむかしまへ稲びかり 万太郎

寝室に棒立ちとなるいなびかり 誓子

稲妻や島に住みゐる一家族 真砂女

稲妻のはげしき夜々の俵編み 真砂女

塩つけて鮑あらふやいなびかり 真砂女

稲光朴の枝羽搏つ如くなり 波郷

堂塔を深夜に立たすいなびかり 誓子

稲妻の照らせし胸のまま対す 汀女

稲妻が見せし心のあり処かな 汀女

明日刈らむ萩を乱していなびかり 林火

稲妻やひとりとなりし四辻より