和歌と俳句

及川 貞

朝餉なる小かぶがにほふやゝ寒く

富士のみはくろし秋晴くづれずに

夫と来て野分の山頂夫とふたり

夫とふたり籠の鈴むし鳴きすぎる

秋くさにいちいち沈み山の蝶

子へ供華のりんだう浸す山の瀬に

水ゆたか都塵は遠し早稲の花

妙高へ晨のこゑの雁がわたる

籾干して家に入りてもひとりかな

すでに亡きあとゝも知らず菊だより

未明覚め汝に栗飯を汝の忌なり

子の忌過ぎもう酸くないか蜜柑供ふ

今日こそは今日こそはと今日障子貼る

人語なし朱欒が熟るゝ島の昼

屈み寄るほどの照りなり草紅葉

鬼灯は暮れてなほ朱のたしかなり

連峯や匂ふ日の出のうろこ雲

五十年いま残菊も切り惜しむ

月光の野のどこまでも水の音

稲妻やひとりとなりし四辻より

けさ秋の木槿くさむらより咲けり

噴煙や花野に坐して花摘まず

童話読むことも看とりや遠花火

偲び居む障子白きを菊咲くを

秋空の昼は火山を低くしぬ

山々よもみぢよ子亡きここ信濃

秋袷忌日の月もこえにけり