和歌と俳句

及川 貞

身仕舞や縁にいたはるにほひ

吾子かへるあけのに起きいでむ

かりのめの杖もたのしく山の月

男体も湯の湖もとざし夜霧来ぬ

が来ぬ庭掃くさへもたのしくて

秋ざくらばかりの庭の主婦若し

戦況ニュースきく膝触るゝ夜寒かな

戦死とぞ知りぬ十月となりし今朝

あきかぜの朝の門あくるはいつもわれ

日射しつゝ霧ある朝二三日

たけるのみの静けさ爪をきる

いかりあり言はざる堪へに昼の虫

虫の闇ふかしこの家に住みし月日

軒に熟れあけびは望の供へもの

かまつかはも少し燃えよ吾子かへる

菊の香や佳節を想ひ母をおもふ

菊の障子明るく菊の名はゆかし

菊の高貴われら許りのおもひかな

噴井あり黄菊のかげも井をこぼる

葉けいとういつまで燃えてとり残す