父立ちて子の起伏や柿の家
許されてむく嬉しさよ柿一つ
腹痛に醒めて人呼ぶ夜半の秋
秋晴や栗むきくれる兄と姉
独り居て淋しく栗をむく日かな
秋の夜やあまへ泣き居るどこかの子
老顔に秋の曇りや母来ます
帰り路を転び給ふな秋の暮
退院の足袋の白さよ秋袷
面痩せて束ね巻く髪秋袷
病み痩せて帯の重さよ秋袷
躾とる明日退院の秋袷
秋草に日日水かへて枕辺に
まどろむやささやく如き萩紫苑
毛虫の子茎を這ひゐし芒かな
火なき火鉢並ぶ夜寒の廊下かな
菊の日を浴びて耳透く病婦かな
病癒えて菊にある日を尊めり
母留守の菊にそと下りし病後かな
個性まげて生くる道わかずホ句の秋
妬心ほのと知れどなつかし白芙蓉
螺線まいて崖落つ時の一葉疾し
鶏頭大きく倒れ浸りぬ潦
櫛巻にかもじ乾ける菊の垣
秋山に映りて消えし花火かな
石の間に生えて小さし葉鶏頭
湖畔歩むや秋雨にほのと刈藻の香