和歌と俳句

杉田久女

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秋雨に翅の雫や網の鷲

つれづれに浸る湯壺や秋の雨

霧雨に病む足冷えて湯婆かな

障子はめて重ねし夜着や秋の雨

簾捲かせて銀河見てゐる病婦かな

屋根石に四山濃くすむ蜻蛉かな

今朝秋の湯けむり流れ大鏡

林檎畠に夕峰の濃ゆき板屋かな

八月の雨に蕎麦咲く高地かな

難苦へて母すこやかや障子張る

朝な梳く母の切髪花芙蓉

葉洩日に碧玉透けし葡萄かな

葡萄暗し顔よせ粧る夕鏡

落葉松に浮雲あそぶ月夜かな

葡萄投げて我儘つのる病婦かな

山の温泉や居残つて病む秋の蚊帳

虫鳴くや三とこに別れ病む親子

西日して日毎に赤らむの数

葉を打つてしぼみ落ちたる芙蓉かな

おいらん草こぼれ溜りし残暑かな

鬼灯や父母へだて病む山家の娘

秋風やあれし頬へぬる糸瓜水

秋風の枕上なる櫛鏡

色どれど淋しき頬や花芙蓉

蟋蟀も来鳴きて黙す四壁かな