昔見て今もこもらふ歯朶の葉の暗がりふかく釣瓶を吊るも
雲とほくまたも行きなん桑の葉のしげりにこもりこの水を飲む
日焼け瓜いくつも下がり明るめり夕焼畠に我も明るき
いとどしく夕焼畑のまんなかに熱き胡瓜を握りたるかも
芒の穂白き水噴くと見るまでに夕日に光り竝びたるかも
紅の芒の穂並くもり日の静かさふかく動く時かも
夏の草い分けおしわけ立ちのぼる炎の上に太陽が照る
夏草の茂りを深くくづりたる黄ろき烟立ちまよひ居り
夕焼くる雲もあらねば高天の奥所明るく黄に澄めるかも
夕焼の青草ふかく真鍮の烟管を石にはたきけるかも
伏しなびくみだれ青葦白き帆を一ぱいに張り夕焼の水
夕やけの光の街は瓦斯の灯の青くあやしく満ちゆかんとす
女手に炭団もろむる昼久しちりたまりたり鳳仙花の花
鳳仙花くれなゐ零れこぼるれど炭団まるめて余念なし女
衢風はや秋ならしぬば玉の夜の目にしるく雲流れ見ゆ
行く雲はささやかなれど切れぎれに都の夜を流れ居る見ゆ
小石川富坂上の木ぬれにはここだも通る夜の雲かも
硝子窓に夜の雨流れゐたりけり寝んと思ひつつ寂しくもあるか