和歌と俳句

島木赤彦

昔見て今もこもらふ歯朶の葉の暗がりふかく釣瓶を吊るも

雲とほくまたも行きなん桑の葉のしげりにこもりこの水を飲む

日焼けいくつも下がり明るめり夕焼畠に我も明るき

いとどしく夕焼畑のまんなかに熱き胡瓜を握りたるかも

芒の穂白き水噴くと見るまでに夕日に光り竝びたるかも

紅の芒の穂並くもり日の静かさふかく動く時かも

夏の草い分けおしわけ立ちのぼる炎の上に太陽が照る

夏草の茂りを深くくづりたる黄ろき烟立ちまよひ居り

夕焼くる雲もあらねば高天の奥所明るく黄に澄めるかも

夕焼の青草ふかく真鍮の烟管を石にはたきけるかも

伏しなびくみだれ青葦白き帆を一ぱいに張り夕焼の水

夕やけの光の街は瓦斯の灯の青くあやしく満ちゆかんとす

女手に炭団もろむる昼久しちりたまりたり鳳仙花の花

鳳仙花くれなゐ零れこぼるれど炭団まるめて余念なし女

衢風はや秋ならしぬば玉の夜の目にしるく雲流れ見ゆ

行く雲はささやかなれど切れぎれに都の夜を流れ居る見ゆ

小石川富坂上の木ぬれにはここだも通る夜の雲かも

硝子窓に夜の雨流れゐたりけり寝んと思ひつつ寂しくもあるか