中天に並ぶ岩あり霧の奥
清水の屋根あらはれぬ霧の中
護摩堂にさしこむ秋の日あし哉
社壇百級秋の空へと上る人
戸口迄送つて出れば星月夜
門を出て十歩に秋の海広し
那古寺の椽の下より秋の海
道尽きて雲起りけり秋の山
秋の山御幸寺と申し天狗住む
秋の山松鬱として常信寺
山陰や日あしもささず秋の水
底見えて魚見えて秋の水深し
鹿聞いて淋しき奈良の宿屋哉
ともし火や鹿鳴くあとの神の杜
朝鳥の来ればうれしき日和哉
赤蜻蜒飛ぶや平家のちりぢりに
啼きながら蟻にひかるる秋の蝉
我に落ちて淋しき桐の一葉かな
駄菓子売る村の小店の木槿かな
道ばたの木槿にたまるほこり哉
木槿咲く塀や昔の武家屋敷
木槿垣草鞋ばかりの小店哉
露なくて色のさめたる芙蓉哉
松が根になまめきたてる芙蓉哉
通天の下に火を焚く紅葉かな
鶏遊ぶ銀杏の下の落葉かな