藁葺の法華の寺や鶏頭花
水せきて穂蓼踏み込む野川哉
溝川を埋めて蓼のさかりかな
松に菊古きはもののなつかしき
人形をきざむ小店や菊の花
武家町の畠になりぬ秋茄子
秋茄子小きはもののなつかしき
切売の西瓜くふなり市の月
稲の花今出の海の光りけり
二の門は二町奥なり稲の花
稲の穂に湯の町低し二百軒
ところどころ家かたまりぬ稲の中
稲の雨斑鳩寺にまうでけり
稲の秋命拾ふて戻りけり
巡礼や稲刈るわざを見て過る
籾干すや鶏遊ぶ門の内
通夜堂の前に粟干す日向哉
唐辛子蘆のまろ屋の戸口哉
ほろほろとぬかごこぼるる垣根哉
牛蒡肥えて鎮守の祭近よりぬ
名も知らぬ菌や山のはいり口
松茸はにくし茶茸は可愛らし
谷あひや谷は掛稲山は柿
せわしなや桔梗に来り菊に去る
柿赤く稲田みのれり塀の内
秋の立つ朝や種竹を庵の客
やや寒みちりけ打たする温泉哉
やや寒み朝顔の花小くなる
ひやひやと朝日さしけり松の中
肌寒や湯ぬるうして人こぞる
夜を寒み俳書の山の中に坐す
灯ともして秋の夕を淋しがる
山門をぎいと鎖すや秋の暮
長き夜や千年の後を考へる
長き夜や孔明死する三国志
椎の樹に月傾きて夜ぞ長き
いのちありて今年の秋も涙かな
枕にす俳句分類の秋の集
月蝕の話などして星の妻
十年の硯洗ふこともなかりけり
両国の花火見て居る上野哉
案山子にも劣りし人の行へかな
説教にいかでやもめの砧かな
打ちやみつ打ちつ砧に恨あり
酒のあらたならんよりは蕎麦のあらたなれ
北国の庇は長し天の川
庭十歩秋風吹かぬ隈もなし
銀杏の青葉吹き散る野分哉
野分して上野の鳶の庭に来る
野分の夜書読む心定まらず