和歌と俳句

夜寒

狼の聲も聞こゆる夜寒かな 子規

山もとのともし火動く夜寒哉 子規

児二人並んで寐たる夜寒哉 子規

菅笠の紐引きしめる夜寒哉 子規

合宿の歯ぎしりひゞく夜寒哉 子規

鼻たれの兄とよばるゝ夜寒哉 子規

一つづゝ波音ふくる夜寒哉 子規

昼中の残暑にかはる夜寒哉 子規

文机にもたれ心の夜寒哉 子規

下京のともし火ならぶ夜寒かな 虚子

不忍の池をめぐりて夜寒かな 子規

須磨寺の門を過ぎ行く夜寒哉 子規

大仏の足もとに寐る夜寒哉 子規

客人を書院に寐かす夜寒哉 漱石

木枕の堅きに我は夜寒哉 漱石

膝抱いて淀の川船夜ぞ寒き 虚子

夜を寒み俳書の山の中に坐す 子規

盛り崩す墓石の音の夜寒し 漱石

据風呂に二人入りこむ夜寒かな 碧梧桐

蓑笠をかけて夜寒の書斎かな 子規

夜を寒み人語聞えて森の寺 碧梧桐

舟歌のやんで物いふ夜寒かな 子規

韋編断えて夜寒の倉に束ねたる 漱石

灯明るき大路に出たる夜寒かな 虚子

母と二人いもうとを待つ夜寒かな 子規

盛り崩す墓石の音の夜寒し 漱石

ラムプさげて人送り出る夜寒かな 虚子

道標や夜寒の顔を集め讀む 虚子

点滴と夜寒の釜の鳴る音と 碧梧桐

湖を見て夜越えになりし夜寒かな 碧梧桐

夜を寒み伽すれば乞ふに読む書あり 碧梧桐

谷水の地底に鳴りて夜寒かな 碧梧桐