嬉しがる声の中芋畑を行く影したり
曳かれる牛が辻でずつと見廻した秋空だ
又隣のドラ声の夕べの真ツ白な月だ
子規十七回忌の子供の話婦人達とおほけなく
稲が黄に乾いて踵の泥がイヤにくつゝいて
葛の花が落ち出して土掻く箒持つ
一葉一葉摘む桑の阿武隈芒
家が建つた農園のコスモスはもう見えない
長良川落鮎の水の顔がほてつて
航海日誌に我もかきそへた瓶の撫子
赤土のなだれの女郎花咲く窓べ
牧場から来た女の穂芒に吹かれ行く
稲の秋の渡し待つてゐるどれも年寄りと話す
木の間に低く出た月を見て戸を引いてしまふ
散らばつてゐる雲の白さの冬はもう来る
中庭の柑子色づき来ぬ藁二駄おろす
野茨の実をつむ人のつみあかずゐる
西瓜船の酒菰のまゝ秋になるいく日を過ごす
干し残るゆふべの藻屑尾の白き蜻蛉のゆきぬ
壁土を捨てた雨の湿りのこほろぎの出る
諏訪神社並木の松は芒萱原